写真は、奥行きのない平面として存在する。紙に印刷した場合、それは厚さ数十~数百ミクロンの立体物ではあるが、紙は単なる支持体であり、写真の像は幅と高さという2つのベクトルのみを持つ。だが、人は写真を見たときに、奥行きを感じる。それは、遠近による大きさの見え方や、陰影の付き方、パースの有無などを脳が解釈し、擬似的な立体感を生み出しているためだ。これは人間の脳のソフトウェア的補完機能によるもの。写真のイリュージョンである。だが、もし立体的に見える要素がない写真だったらどうなるだろうか。望遠レンズの圧縮効果を使い、遠近感をなくす。陰影がわかりにくい光を選ぶ。パースに対して逆パースを与え、相殺する。イリュージョン的要素に対し、アンチイリュージョン的要素を加算し、打ち消していく。立体性を失い平坦化された風景は、まるで知覚を薄切りにして抜き出したようなもの。このようにして出来上がった写真は、頭の中で二次元と三次元を行き来する。これらの歪で違和感を覚える街の風景は、イリュージョンというまやかしが存在しない、本質的な写真の像である。
サイズ A5
ハードカバー
40ページ
手製本